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仙台地方裁判所 昭和48年(ワ)673号 判決

原告 庄子よしい

〈ほか四名〉

原告ら訴訟代理人弁護士 渡部修

被告 愛沢信吉

被告 相馬あられ株式会社

右代表者代表取締役 山田英二

被告ら訴訟代理人弁護士 佐藤唯人

主文

被告らは各自、原告庄子よしいに対し金八一万六、七二九円および内金七三万六、七二九円に対する昭和四五年一〇月二九日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告庄子伝治、阿部京子、庄子信夫、佐藤弘子に対しそれぞれ金二三万八、三六四円および内金二一万八、三六四円に対する右同日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

原告らのその余の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告らは各自、原告庄子よしいに対し金二四七万一、〇〇〇円、原告庄子伝治、阿部京子、庄子信夫、佐藤弘子に対しそれぞれ金一〇一万五、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四五年一〇月二九日から支払い済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一、請求原因

(一)  事故の発生

昭和四五年一〇月二九日午後六時五〇分ごろ、宮城県宮城郡宮城町下愛子三五番地四号先の国道四八号線愛子幼稚園前横断歩道において、山形方面から仙台方面に向って進行してきた被告愛沢運転の普通貨物自動車(以下、被告車という)が、右横断歩道を被告車の進行方向に向って右から左へ歩いて横断していた訴外庄子吉蔵(以下、亡吉蔵という)に衝突し、そのため同人は即死した。

(二)  責任原因

1 被告愛沢

本件事故は、被告愛沢が被告車を運転して進行中、前方注視を怠ったため発生したものであるから、同被告は、民法第七〇九条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

2 被告会社

被告会社は本件事故当時、自己のために被告車を運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条に基づき、本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(三)  損害

本件事故によって生じた損害はつぎのとおりである。

1 亡吉蔵の逸失利益

亡吉蔵は満六二才(明治四〇年一二月一日生)の健康な男子であって、田一七八アール、畑一〇アールの規模の農業経営を主宰する傍ら、愛子幼稚園の補助職員として稼働していたところ、本件事故により死亡したため、つぎのとおり、これによって得られるであろう収入を失った。

(1) 農業収入

右田畑の所在する宮城県宮城郡宮城町の昭和四八年分農業所得関係所得標準表によると、田一〇アール当りの年間純収益は金六万三、四〇〇円、畑一〇アール当りの年間純収益は金三万一、九〇〇円である。したがって、亡吉蔵がその経営を主宰する農業の年間純収益は、田につき金一一二万八、五二〇円、畑につき金三万一、九〇〇円、計金一一六万〇、四二〇円であるところ、同人のこれに対する寄与率は七割とみるのが相当であるから、右年間純収入のうち金八一万二、二九四円が同人に帰属するものというべきである。

(2) 賃金収入

亡吉蔵は本件事故当時、愛子幼稚園の補助職員として年間金三二万一、六〇〇円(月平均二万六、八〇〇円)の賃金の支給を受けていた。

したがって、亡吉蔵の年間収入は、計金一一三万三、八九四円であるところ、同人の生活費は一か月金一万五、七〇〇円、年額金一八万八、四〇〇円であるから、これを控除すると、その年間純収入は金九四万五、四九四円となる。

ところで同人の就労可能年数は六・九年であるから、右年間純収入を基礎とし、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して同人が右期間中に得るであろう純収入の現在額を算出すると、その金額は金五五五万三、八三一円である。

(相続)

原告庄子よしいは亡吉蔵の妻であり、その余の原告らはその子であるところ、原告らはその法定相続分(原告庄子よしいにつき三分の一、その余の原告らにつき各六分の一)にしたがい、亡吉蔵の右損害金債権を、原告庄子よしいにおいて金一八五万一、二七七円、その余の原告らにおいて各金九二万五、六三八円ずつ相続により承継した。

2 葬儀費および墓標建立費

原告庄子よしいは亡吉蔵の葬儀を挙行し、その費用として金三〇万円、墓標建立費として金六〇万円、計金九〇万円を支出した。

3 慰藉料

亡吉蔵の死亡により原告らが蒙った精神的苦痛に対する慰藉料は各金一〇〇万円とするのが相当である。

4 弁護士費用

原告庄子よしいにつき金二二万円、その余の原告らにつき各金九万円

(一部弁済および損害の填補)

以上によれば、本件事故によって生じた損害は、原告庄子よしいにつき金三九七万一、二七七円、その余の原告らにつき各金二〇一万五、六三八円であるが、原告らは自動車損害賠償保障法に基づく保険金として、金五〇〇万円の給付を受けたほか、被告会社から金五〇万円の支払いを受けたので、右計金五五〇万円を原告庄子よしいの損害につき金一五〇万円、その余の原告らの損害につき各金一〇〇万円ずつ充当すると、残額は原告庄子よしいにつき金二四七万一、二七七円、その余の原告らにつき各金一〇一万五、六三八円である。

よって原告らは被告らに対し各自、右損害の内金として原告庄子よしいに対し金二四七万一、〇〇〇円、その余の原告らに対し各金一〇一万五、〇〇〇円および右各金員に対する本件事故発生の日である昭和四五年一〇月二九日から支払い済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因第(一)項の事実は認める。

2  同第(二)項中、1の事実は争う。2の事実は認める。

3  同第(三)項の事実は争う。亡吉蔵の農業経営による収入の算定にあたっては、本件事故発生の年である昭和四五年分の農業所得関係所得標準表を使用すべきであり、また、同人の生活費はその収入の三割五分とみるのが相当である。

第三証拠≪省略≫

理由

一、原告ら主張の日時場所において、原告ら主張のごとき交通事故が発生したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、そのため、亡吉蔵は頭部外傷による脳幹麻痺のため死亡したことが認められ、右事実によれば、本件事故は、被告愛沢が被告車を運転中前方注視を怠ったため発生したものというべきであるから、同被告は本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

また、本件事故当時、被告会社が自己のために被告車を運行の用に供していたことは被告会社の認めて争わないところであるから、被告会社もまた、本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

二、そこで、本件事故によって生じた損害について検討する。

1  亡吉蔵の逸失利益

(1)  農業収入

≪証拠省略≫によれば、亡吉蔵は本件事故当時、妻や長男夫婦らと生活を共にして家業である農業を主宰し、田一七八アール、畑一〇アールを、妻よしい、長男伝治およびその妻らの助けを借りて耕作していたこと、右田畑の所在する宮城県宮城郡宮城町の昭和四五年分農業所得関係所得標準表によると、田一〇アール当りの年間所得は金五万四、六〇〇円、畑一〇アール当りの年間所得は金二万四、〇〇〇円であり、昭和四八年分のそれによると、田一〇アール当り年間所得は金六万三、四〇〇円、畑一〇アール当り年間所得は金三万一、九〇〇円であることが認められる。右事実によれば、亡吉蔵方の農業による年間所得は、昭和四五年から同四七年までの間においては、田につき金九七万一、八八〇円、畑につき金二万四、〇〇〇円、計金九九万五、八八〇円、昭和四八年以降においては田につき金一一二万八、五二〇円、畑につき金三万一、九〇〇円であることが推認し得るところ、亡吉蔵方において、右農業に従事していた者は、前記のとおり、亡吉蔵のほか、妻よしい、長男伝治およびその妻の三名であるが、≪証拠省略≫によれば、長男伝治はほかに小学校教員の職があることが認められ、ほかの二名も一家の主婦でもあることを考えると、亡吉蔵の右農業に対する寄与率は六割とみるのが相当であり、したがって、右農業による年間所得のうち昭和四五年から同四七年までの間においては金五九万七、五二八円、昭和四八年以降においては金六九万六、二五二円が亡吉蔵に帰属するものというべきである。

ところで、≪証拠省略≫によれば、亡吉蔵は本件事故当時、六二才(明治四〇年一二月一日生)であってその健康状態も良好であったことが認められるところ、厚生省発表の第一二回生命表によれば、亡吉蔵と同年令の男子の平均余命は一三・八二年であるから、本件事故に遭遇しなければ、同人も右同期間生存し得たものと推認でき、これに農業が相当強度な肉体労働を伴う仕事であることを合せ考えると、亡吉蔵は六七才まであと五年間前記農業に従事しその期間中、前同額の収入を得ることができるものとするのが相当である。

(2)  賃金収入

≪証拠省略≫によれば、亡吉蔵は本件事故当時、農業の合間に長男伝治の経営する愛子幼稚園で雑役夫として稼働し、一か月金二万六、〇〇〇円、年間金三一万二、〇〇〇円の賃金の支給を受けていたことが認められるところ、右労働の性質および前記のごとき亡吉蔵の健康状態、生存可能期間等を合せ考えると、亡吉蔵は七〇才まであと八年間右の仕事を続け、その間右同額の収入を得ることができるものとするのが相当である。

以上を要するに、本件事故に遭遇しなければ、亡吉蔵が農業従事者として、また幼稚園の雑役夫として得たであろう収入は、別表該当欄記載のとおりであるが前認定のごとき同人の年令、職業、家族関係および収入の額等を合せ考えると、その生活費は収入の三分の一(ただし、六八才以降は収入の全部)とみるのが相当であるから、同人の各年の収入から生活費を控除した各年の純収入を基礎としホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して右純収入の現在価額を算出すると、その金額は、別表記載のとおり、金二八一万〇、一八六円である。

(相続)

≪証拠省略≫によれば、原告庄子よしいは亡吉蔵の妻であり、その余の原告らはその子であることが認められるところ、ほかに特段の事情の認められない本件においては、原告らはその法定相続分(原告庄子よしいにつき三分の一、その余の原告らにつき各六分の一)にしたがい亡吉蔵の右損害金債権を相続により原告庄子よしいにおいて金九三万六、七二九円、その余の原告らにおいて各金四六万八、三六四円ずつ承継したものというべきである。

2  葬儀費および墓標建立費

≪証拠省略≫によれば、原告庄子よしいは亡吉蔵の葬儀を挙行し、その費用として、およそ金四〇万円を支出したほか、同人の墓標建立のため金六〇万円を費やしたことが認められるが、同人の年令、職業、家族関係および本件事故当時の社会的経済的事情など諸般の事情を合せ考えると、右葬儀費および墓標建立費のうち本件事故と相当因果関係のある損害は金三〇万円とするのが相当である。

3  慰藉料

本件事故の態様、ことに本件事故が被告愛沢の一方的な過失に起因するものであること、原告らと亡吉蔵との身分関係および本件事故当時の社会的経済的事情その他本件審理に顕れた諸般の事情を合せ考えると、本件事故により亡吉蔵を失ったために蒙った原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は原告庄子よしいにつき金一〇〇万円、その余の原告らにつき各金七五万円とするのが相当である。

(一部弁済および損害の填補)

以上によれば、本件事故によって生じた損害は原告庄子よしいにつき金二二三万六、七二九円、その余の原告らにつき各金一二一万八、三六四円であるが、原告らが自動車損害賠償保障法に基づく保険金として金五〇〇万円の給付を受けたほか、被告会社から金五〇万円の支払いを受けたことは原告らの自陳するところであるから、右計金五五〇万円を原告らの主張にしたがって原告庄子よしいの損害につき金一五〇万円、その余の原告らの損害につき各金一〇〇万円ずつ充当すると、その残額は原告庄子よしいにつき金七三万六、七二九円、その余の原告らにつき各金二一万八、三六四円である。

4  弁護士費用

本件審理の経過や請求の認容額など本件審理に顕れた諸般の事情を合せ考えると、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は原告庄子よしいにつき金八万円、その余の原告らにつき各金二万円とするのが相当である。

以上を要するに、被告らは各自、原告庄子よしいに対し右1ないし4の損害金八一万六、七二九円および内金七三万六、七二九円(右1ないし3の損害)に対する本件事故発生の日である昭和四五年一〇月二九日から支払い済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告らに対しそれぞれ右1、3、4の損害各金二三万八、三六四円および内金二一万八、三六四円(右1、3の損害)に対する右同日から支払い済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある(なお、原告らは右4の損害についても前同日から支払い済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を請求するけれども、≪証拠省略≫によれば、右の弁護士費用は原告らがその支払いを約しただけで未だ現実に支払われているわけではないことが認められるから、これについては遅延損害金は発生しないと解するのが相当である)。

三、よって、原告らの本訴請求は、右説示の限度で理由があるから、その範囲で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大塚一郎)

〈以下省略〉

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